こんにちは、ヒュー・マナハタ(@HughManahata)です。
日本のニュースをチェックしていると、芸能人が日本から活動の拠点をニューヨーク(およびハリウッド)に移すといったニュースをたまに見かけることがあります。
芸能活動ではなく観光半分の語学留学ならば、日本にいるよりは多少英語力はつくだろうし(本人の努力次第ですが)、楽しくやれていいんじゃないかと思います。
そんなに長い期間でなければ日本に戻って来ればまた仕事もあるでしょうし。
ただ留学ではなくアメリカへ本格的に進出して芸能活動を行う、となると単なる留学とは比べものにならないぐらい大きな障害が待ち受けてます。
本人がそういう障害を十分に理解しており、色々考えた上で勝算があると思ってやっているならまだわかりますが、どうも軽い気持ちで「ハリウッドスターになる」とか「アメリカで芸能活動をする」と言っている人が多い気がします。
そういう日本の芸能人にちょっと申したいのが、アメリカ進出はそんなに簡単なことではないということ。そしてそこには多分想像しているより何十倍も厳しい現実があるということです。
障害1:英語が喋れないのにどう活動するのか?
ご存知の通りアメリカでは英語が公用語です。その英語を全く不自由なく喋れる人はまだいいですが、満足に喋れない人はどうやって活動するつもりなんでしょうか。
俳優ならこの時点で詰みですね。アメリカでは英語ができない俳優なんて必要ないですから(だからハリウッド映画の日本人役には「純日本人」ではなく英語が話せるアジア系アメリカ人などが採用されることが多い)。
そしてここでの「英語が話せる」とは簡単な日常会話レベルなどではなく、通訳なしで不自由なくアメリカ人とコミュニケーションが取れるレベルのことです。そうでなければ現場で非常に苦労するのは目に見えています。
例えばアジアのスターが日本で売り込みをしても、日本語ができなければ日本で売れないのと同じです。
「お笑い芸人だから言葉を話さなくても体を張って笑いを取れる」と考えているのならば、逆に「アメリカ人の笑いのツボを理解しているのか?」と聞きたい。
一般的には日本のお笑いとアメリカのコメディはかなり異質なものであり、さらに英語ができないとなるとハッキリ言って絶望的です。
キワモノとして瞬間的に笑いを取れることはあるかもしれませんが、継続的に仕事をもらい続けることは極めて困難と言わざるを得ません。
唯一希望がありそうなのはアメリカ人がよく知る人物のモノマネや、インスタグラムやYouTubeなどでインターナショナルなアイコンになるなどでしょうか。
障害2:人種およびマイノリティの壁
日本人はアメリカで差別されているのか。ニューヨークでの人種差別のリアルにも書きましたが、日本にとっての超大国アメリカの存在感と、アメリカにおける日本の存在感には天と地ほどの差があります。
アメリカのビッグスターは日本でもビッグスターですが、日本のビッグスターはアメリカでは一般的に全くの無名なのです。
そして移民が多いとはいえアメリカは白人が人口の8割近く(約77%)を占める白人の国です。
第二勢力である黒人やヒスパニック(中南米系)を加えるとその時点で全人口の9割以上を占めるこの国では、アジア人は映画やテレビの世界ではまだまだマイナーな存在でしかない。
毛嫌いされるようなあからさまな差別は受けないにしても、そもそもテレビや映画でわざわざアジア人をたくさん見たいという白人や黒人はほとんどいません。これは以下の理由から説明できます。
例えばアジアを舞台にしていない「一般的なハリウッドの王道アクション映画」でキャストの半分以上が特別な理由もなくアジア人だったら、国内の主な視聴者層である白人や黒人にとって不自然極まりないですよね。
これは一般的な日本のテレビドラマのキャストの大半が、何の説明もなくインド人だったら不自然なのと同じ理屈です。
一般的な日本の視聴者で「テレビドラマにもっとインド人やベトナム人を使うべきだ!」などと本気で思っている日本人がどれだけいるでしょうか。
つまりアメリカの一般の視聴者層(白人・黒人・ヒスパニック)を無視して強引にアジア人だけ多くするわけにもいかないので、必然的にアメリカでの活動の場はかなり制限されることになります。
最近ではダイバーシティが叫ばれておりキャストを全員白人で固めてしまうと「人種差別だ!」とうるさく言われるので、アジア人がキャストに入ることが多くなっています。
しかしこれはあくまでも「ダイバーシティ要員」として呼ばれている場合がほとんどであって、大多数のアメリカ人視聴者は別にアジア人キャストなどいてもいなくてもいいと思っているのが現実なのです。
要は「キャストの中に少数アジア人が紛れているのはいいけど、多数派になられるのは困る」というのが正直なところでしょう。
※関連記事:日本人はアメリカで差別されているのか。ニューヨークでの人種差別のリアル
また日本の歌手やバンドが「アメリカ公演」をやることがありますが、現地の一般的なアメリカ人を大量に動員できる日本人アーティストなどほぼいません。
そういうライブやコンサートは一定数のマニアがいるか、大抵運営側が必死になって現地在住の日本人を集めたり、アメリカ人にタダでチケットを配ったりして席を埋めているような状況です。
例えば「日本で全く知名度がないスペイン語圏の大物歌手」が、日本でスペイン語のコンサートをやりますといって来日したとして、それを見に行く日本人がどれだけいるでしょうか。
それと同じで「アメリカで知名度がない日本人アーティスト」を見に行きたいアメリカ人がいないのは至極当然ですね。
日本ではいかにも大成功したみたいな報道になりがちですが、現実はタダ券に頼りまくった見せかけの成功なのです。
ここまで苦労してアメリカ公演を行うのは、ほとんどの場合「アメリカ公演をやった」という「箔」を付けるのが目的でしょう。
現実的なところアメリカでも一般人に知られているようなビッグな日本のバンドなど皆無ですから。
その点K-POPは若い世代なら一般的なアメリカ人にも知られたアーティストが出てきつつあるため、日本のマネジメント会社よりも運営が一歩も二歩も上手(うわて)です。
日本も負けないように売り込んで欲しいものです。
最後に
上では触れませんでしたが、アメリカに移住するには何らかのビザが必要です。
一般的に学生ビザ以外は誰でも簡単に取得できるようなものではなく、各種審査にパスする必要があります。
取得できたとしても更新回数に制限があり、アメリカに住める年数の上限が決まっているものが多いため、期限がくればアメリカから退去する必要があります(芸能ビザは活動実績があれば期限後にも1年毎に更新し続けられるらしいですが)。
まあ究極的には他人がそれぞれの人生で何をしようが自由なのでそこは尊重しますが、僕が言いたかったのは「アメリカに進出」といえば聞こえはいいが現実はそんなに甘くない、それどころかかなり厳しいよ、ということにつきます。
人種や言葉の壁という大きなマイナスからスタートしなくてはならない、まさに人生のハードモードにチャレンジするのが果たして本当に最善の選択肢なのか。それをよく考えてない人が多いんじゃないかなと。
ただアメリカはチャンスの国でもあります。努力次第で成功し、アメリカンドリームを掴むことができるのがこの国の魅力なので、芸能人に限らず今後アメリカで活躍する日本人が増えてほしいものです。
アメリカ文化やニューヨークについてもっと知りたい方は異文化コラムのその他の記事も参照してください。
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